死んだ祖父からのミッション
「山芋を掘ってくれ。」
今日祖母に会って開口一番に言われた言葉だ。本番後に初めて会うんだし、普通もっと積もる話があるでしょう・・・。
その山芋とは何年も前に死んだじいちゃんが植えたもの。生前のじいちゃんはこの季節になるととり憑かれたように山に入り、ウッキウキな顔で土をほじくり返すような山芋ジャンキーだった。
そんな祖父が(家でも山芋掘れたらなぁ)と一般人には到底理解できない酔狂で庭に植えたものが冒頭のソレである。
「山芋を掘ってくれ。」
そう言った祖母の後ろで、晩年の懐っこい顔をしたじいちゃんが笑ったような気がした。しかしその笑顔はかわいい孫の顔を見る笑みではなく、「掘れるもんなら掘ってみぃや。」的な、なんか挑戦的なアレであった。
イラっ・・・
いいだろう。これは死んだ祖父が残したミッション、つまりインナーミッション(家庭内指令)だ。その挑戦的な笑顔を悔しさに歪めてみせよう。見とけ今朝之!!(←じいちゃんの名前) というわけで・・・
ミッションスタート!!
ミッション1 ~指令は2つ~
どうやらじいちゃんが庭に植えた山芋は2つ。1つは庭の真ん中に。もう一つは庭の端っこのようだ。つまりこの2つの山芋を掘りきることが出来れば即ちミッションクリアである。しかしこのミッションにはある条件が存在する。それは・・・
「途中で山芋を折らないこと」だ!!
おそらく大半の人は分からないだろうから説明しよう。
山芋、特にちゃんと育てたわけではないほったらかしの山芋は、形がとてもいびつなのです。途中で何か所も枝分かれしたさつまいものようなものと言ったら分かりやすいだろうか。
掘っていてもどんな形なのか、全く予想出来ない。そのいびつな姿かたちは武骨なおっさんのようでもある。
そして「折らないこと」という難易度を更に跳ね上げてくるのが、その「脆さ」。軍手で軽く撫でるだけで皮は剝げ落ち、ほんのちょっとしたはずみで簡単に折れてしまう。つまり山芋とは
「めちゃくちゃ繊細なゴリッゴリの顔をした武骨なおっさん」とも言える。
可愛げがないぜ。なんかテンション上がんねぇな。まぁ掘るか・・・。
ミッション2 ~掘削開始~
とりあえず掘りやすそうな庭の真ん中に植わっている山芋に着手する。シャベルでガンガン掘り進めたいがどんな形をしているか予想がつかないので、軍手で撫でるように慎重に掘り進めた。
あの時の俺はさながら「化石の発掘員」のようだったろう。小学生の頃の考古学者という夢を20年越しに叶えた気分だ。まぁ掘ってるのはティラノサウルスでも未知の遺跡でもなく、ただの山芋だけど・・・。 https://www.youtube.com/watch?v=kOPnNOBNKuk ←小学生のころの夢
しかし20㎝ほど掘り進めたところで、ある違和感が山芋考古学者を襲ったのである。
(土が・・・硬い・・・!)
その硬さは半端ではなかった。途中でやむなくシャベルを使ったが、土に当てる度にカツンカツン音が鳴る。しかも更に掘り進めていくと、石がざらに混じるようになった。
(こんな状況でよく育つな・・・)と感心するほどだ。っつーかそもそもなんでこんなトコに山芋植えてんねん。
痛みに耐えながらなるべく軍手で掘り進め、少しずつ削れていく人差し指の皮膚と爪を代償になんとか1本掘りきったのだった。
ミッション3 ~第2指令の脅威~
指先が痛い・・・。というかもう若干痺れすら感じる。
が、実は内心(あれ、案外チョロくね?)と思っていた。
と言うのも、生前のじいちゃんも存命のばあちゃんも口をそろえて「山芋掘りは本当に大変だ」と言っていたからだ。
戦争にも参加し過酷な畑作業、戦後復興、バブル崩壊、ドラえもんの声優総とっかえなど様々な危機を乗り越えてきた人生のスーパーベテラン2人がこう言うものだから、よほどしんどいのだろうと思っていた。
しかし多少の痛い思いをすればいいだけならば、別になんてことはない。たかが芋。さくっと終わらせて今朝之さんを悔しがらせるだけである。
余裕かまして2本目に着手した瞬間、またしても違和感が。
あれ?気持ち1本目より入口太くね・・・?
まぁ多少大きくても問題はない。1本目は30センチほどだったし、植えた時期も同時期だろう。庭の端っこでちょっと掘りにくいが、さくっと終わるべよー。
と思っていた時期が俺にもありました。
太い。っつーか、なんかもう・・・
でかい。
じいちゃん譲りなのか俺も山芋が好きでよくスーパーとかで買うんだけど、それらとは明らかに違う。小学生のころキュウリしか知らなかったスグロ少年が海外でクソでかいズッキーニを見て衝撃を受けたことがあったが、あの感覚に近いものがある。
ちょっと引きつつも掘り進めていくけど、終わりが見えない・・・。ぶっちゃけこいつに着手して2時間は経過している。
時折様子を見に来る祖母は苦戦する姿を見る度ケタケタ笑って帰っていった。そして帰り際に毎回こう言うのだ。
「もう諦めたら?(笑)」
そう言っているのは祖母のはずなのに、挑戦的な笑顔の祖父が透けて見える。即ち「やっぱ達君には出来なかったね。」という勝ち誇った顔である。
確かに何回か「めんどくせーな。もう折っちまうか。」とも考えたが、それを知ってか知らずか毎回ものすごい絶妙なタイミングで祖母が来て煽ってくるもんだから、引くタイミングを完全に失った。
そして指先の激痛と絶妙な煽りに耐えて掘りきった山芋が・・・これだ!!!
はいドーン!!
俺には写真スキルがないのでいまいち伝わりきらないかもしれないが、これ本当にでかいんだよ!あまりに掘りすぎて途中水道管のパイプを掘り当てたんだぞ!
そして洗った後我が家に鎮座ましました山芋様のご尊顔がこちらである。
もうなんか・・・ある種の神々しさすら俺は感じているよ・・・。やってやったぜ、ざまあみやがれじいちゃんよ!
~ミッションコンプリート~
掘りきった・・・。このブログをタイプする度に人差し指が痛む・・・。
祖父からのインナーミッション、完全にコンプリートだ。
しかし、長いこと掘り進めながらずっと考えていた。
じいちゃんはどんな思いでこの山芋を植えたんだろう?
ただの自分が掘りたい酔狂なのか。息子と掘ることを夢見たのか。それとも孫の俺と掘ることを描いて植えたのか。
どちらにせよ、植えたじいちゃんは誰とも掘ることなく、この世から旅立ちました。
でもさ、なんとなく思うんだけど。
親だったらきっと「自分の好きなものは子どもにも知って欲しい」と思う気がするんだよ。もちろん孫にも。だからきっとあの山芋はじいちゃんが「俺たちと一緒に掘りたがった山芋」だと思うんだ。
今回はブログが面白くなるようにじいちゃんを「挑戦的な笑顔」とかいじって書いたけど、実際は多分顔が崩れんじゃないかってくらいニッコニコで見てたと思う。
んで時々「あー!達君そうじゃないって!」「もっと右!右から掘り進めないと!!」とか口出しながら見てたんじゃないかな。やかましいわ。
10年以上経ったけど、「一緒に山芋を掘る」という本当のミッションもちゃんとクリア出来たと思う。
食うのなんてどうでもいい。二の次だ。掘ることそのものに意味がある山芋体験でした。
とは言え山芋大好きなんで超楽しみに食うけどね!トロロニセンギリニテンプラニショウユヤキ・・・ジュルリ・・・。
もう食えなくて残念だったなじいちゃんよ!食う瞬間だけはホントに悔しい顔をするだろうなぁ(笑) 多分ばあちゃんがきれっぱしを仏壇に供えるから、それで我慢してくれ。
よし!
ミッションコンプリィィィィーーーツッッッ!!!
読んでくれてありがとうございました!
またね!
スグロ